植物性食品に豊富に含まれる植物ステロール(フィトステロール)が、2 型糖尿病や肥満、さらには心臓病のリスク低減に関わる可能性が、長期にわたる疫学調査や基礎研究から続々と報告されています。最新の大規模解析では、植物ステロールを最も多く摂っているグループが、摂取量の少ないグループに比べて糖尿病発症リスクが 8%、心臓病リスクが 9%低いことが示されました。
植物ステロールとは
植物ステロールはコレステロールに似た構造を持つ植物由来の成分です。野菜、果物、豆類、ナッツ、種子油、そして玄米などの全粒穀物に含まれています。腸管でコレステロールと競合することで LDL コレステロール(いわゆる「悪玉」)の吸収を抑え、血中コレステロール値を下げる作用が知られています。さらに近年の研究では、インスリン抵抗性の軽減や炎症抑制、腸内細菌叢の改善にも関与することが示唆されています。
糖尿病・肥満リスク低減に働くメカニズム
植物ステロールの一種 β-シトステロールは、腸内で産生される短鎖脂肪酸の増加や TMAO(トリメチルアミン‐N-オキシド)低減に結び付き、代謝ストレスを和らげる可能性があります。これらの作用がインスリン感受性の改善や慢性炎症の抑制につながり、結果として糖代謝の正常化や体重管理に寄与すると考えられています。
玄米に注目される新たな機能成分 CAF
玄米には γ-オリザノール類に分類されるシクロアルテニル・フェルラート(CAF)というハイブリッド化合物が含まれます。CAF はビタミン E 類よりも強い細胞保護作用を示し、酸化ストレスを軽減することで膵 β 細胞の機能維持に役立つと報告されています。

γ-オリザノールが膵 β 細胞を守る可能性
玄米由来の γ-オリザノールは、膵 β 細胞のエンドプラズミックレチクラムストレスを軽減し、グルコース刺激によるインスリン分泌を高める働きがあります。さらに抗炎症作用や抗酸化作用を通じてインスリン感受性を高めることが示唆されており、糖尿病管理における食事療法の一助となる可能性があります。
毎日の食卓で植物ステロールを増やすヒント
・メインの炭水化物源を白米や精製パンだけでなく玄米や全粒粉パンに置き換える
・サラダにナッツや種子(アーモンド、くるみ、ヒマワリの種など)を加える
・調理油にはオリーブオイルや菜種油、未精製の大豆油を活用する
・間食にフルーツや蒸し大豆を取り入れる
これらの工夫により、サプリメントに頼らずとも自然な形で植物ステロールの摂取量を高めることができます。
まとめ
植物ステロールはコレステロール低下作用だけでなく、インスリン抵抗性の改善や炎症抑制など多角的に代謝をサポートします。野菜、果物、全粒穀物、豆類、ナッツ、玄米を中心とした食生活は、糖尿病患者さんの血糖コントロールと心血管リスク管理にとって頼もしい味方になるでしょう。今日の食卓から、少しずつ植物ステロールを取り入れてみてください。
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Multi-layered Investigation of Dietary Phytosterol Intake in Relation to Risk of Type 2 Diabetes and Cardiovascular Disease (米国栄養学会 NUTRITION 2025)
γ-オリザノール含有機能性食品と糖尿病改善医薬 (琉球大学)
岡山大学大学院 環境生命科学研究科 生物機能化学講座
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